マーケットを牽引する
柔軟な「姿勢と視点」

株式会社シュゼット・ホールディングス 
代表取締役社長 蟻田 剛毅 氏

培った知識や経験を思い切って捨てた

松 園

広告代理店で営業マンをしていたという社長の経歴を考えると、真逆ともとれるお話ですよね。私としてはすごく面白いなと思ったんですけど、はじめは葛藤やジレンマがあったのでは?

蟻田氏

いわゆるメディアを使うという大手広告代理店での商売のノウハウは、この業界ではあまり役に立ちませんでした。7割8割のマス心理をついて見込み客を作ることが大手広告代理店の商売ですが、それは我々の商売では、百貨店まで足を運んでもらうところまでのステップ。しかし調べてみると、デパ地下でお菓子を買われるお客様って、来館されてから何を買うか決められる方が9割なんです。となると、店舗での販促を打つだったりとか、接客だったりだとか、コンタクトポイントで何をするかが決定打になってくる。それをはっきりと理解したので、マス広告の知識や経験は思い切ってフタをしました。
逆にすごく役に立ったこともあるんですよ。まず1つは、「美味しい」ということを、いかに「美味しい」以外の言葉で伝えるか、というテクニック。ギネスの記録を持っているとか、ミシェランで認められた、タレントがおすすめしている…。いろいろなレトリックを使い、「美味しい」という言葉を形に変えることの重要性ですね。もう1つは、部署にとらわれないプロジェクトベースでの動き方。広告代理店では、新しい商品のプロモーションの度にチームを決定して動くことが多かったので。新規事業や既存の事業の領域を新しい切り口にするときなど、私が社長になってからはプロジェクトベースで動くようにして、コンセプト作りや行動力が強化され、うまく機能していると思います。

自分・会社・業界を疑うという視点

松 園

マスで集客しても、そこから先のほうが重要ということですね。ちなみに蟻田社長は入社して、まずは店舗に立たれたとか。ご子息ですから普通は、店舗など入らず、本社の企画に携わるかと。店舗で得た経験から、今の考え方に影響していることはありますか?

蟻田氏

“疑う”という視点には、ものすごく生きていると思いますね。創業時、コーヒー一杯が50円という時代に、一杯300円、400円のコーヒーを販売させていただいたので、とても高級でニッチ、“トップ・オブ・トップ”というポジションから始まったんです。その考えがなかなか抜けないまま続けてきたんですけど、東京に来てはじめて店舗に立ったときに、お客様から「あなたのところはお得ね」と言われて、経営陣とお客様が抱いているイメージの差を痛感すると同時に、我々の市場はラグジュアリーではなく、マスラグジュアリーだということに気づきました。それに応じてサービスや提供するものを変えていかなければいけないな、と改めるきっかけになりました。
もちろん経営陣は市場を守るための戦略を立てたり、売り場に指針を与えたりすることも大事です。だけど、自分たちが世間からずれているんじゃないか、という恐れは常に抱いていないと、取り返しのつかないことになる。そういう意味で、自分を疑い、会社を疑う、という視点を持てたのは、店舗での経験のおかげだと思います。

可能性の種を自分で蒔いていく

松 園

これからどんどん事業が大きくなるにつれ、社員のポテンシャルの高さ、理念への共感が、さらに求められるようになるのかな、と。将来的な経営管理層、リーダー層に求める人物像などは、どうお考えでしょうか。

蟻田氏

会社とご本人ともに成功・成長することを、目標に掲げていることが大前提ですね。弊社は拠点を構えるビジネスなので、先ほども申し上げた通り、マネジメントと現場の両方の視点を持ち合わせていなければいけない。実際、すでに結果を残しているメンバーも、その両方の視点を持っていると感じています。 自分で戦略を立てて戦術を回していく、そういうマネジメントがおもしろいな、と感じる方には、すごくやりがいがあるんじゃないかと思います。海外での舞台や通販など、成長している市場において我々は今、将来の拡張に対してのタネを作っている段階です。
シンガポールでも工場・店舗・本社というサイクルを回せるようになれば、フランチャイズのパートナーを探すことが可能になってくる。ひとつの型を作ることによって、いくらでも横展開していくことができると思うんです。その起点となるのが、PDCAを回せるマネジメント。海外で3千円、5千円のギフトを定着させ、日本発の製菓のラグジュアリーブランドを確立できれば、世界初の事例となる。そういう可能性の種を自分が蒔いていくんだ!という意欲がある方に、ぜひとも挑戦していただきたいです。

松 園

最近よく聞くのが、企画はできるけどハンズオンできない、または、昔ながらにハンズオンはできるけど企画はできない、というパターン。内部から昇進させる、または外部からとっていく中で、必ずしも全員がうまくいくわけではないというご苦労があると思うんですけど。

蟻田氏

うちは理念が結構はっきりしていて、“シュゼット至上主義”という社員が多いんです。そういう理念に対する共感があるかないかが、重要になってきます。理念への共感もあり結果も出る、というパターンが最高ですよね。共感も低く結果も出ていない、という場合は場を間違えているかもしれません。共感はあるが結果が出ない、というパターンが、会社が最も試される場面ですよね。中途採用はとくに期待をされてしまいますが、結果がでないのは時の運もありますから。そういうときはまず、共感の部分を一緒に見直していく、という作業をするようにしています。朝礼や研修など理念浸透のプログラムは多いと思います。
共感はないが結果が出ている、という場合も、共感を生むきっかけを一緒に作っていくことはできる。それでもこの会社には馴染めない、と感じたならば、道を分かつことも正しい選択だと思います。

松 園

最後に、継承者がいなくて困っている方、蟻田社長のようにご実家がビジネスをやっていらっしゃって経営に挑戦しようと思っている方に、メッセージをいただけますか。

蟻田氏

継承者不在のため諦めざるを得ない、という方には、若い私が言うのも恐縮ですが一緒にどうですかと声がけさせていただいています。弊社は事業承継に問題を抱えた菓子屋やバイヤーと仲間になって事業再生を目指す、という活動を行っているんですよ。経営者として同業他社が潰れると、競争という観点ではむこう1週間の自社店舗にはいいことなんですけど、10年、20年後に業界全体として、いい結果にはならない。もう一度商売がしたい、という方は、うちにご相談いただけると嬉しいです。
また傾いたビジネスを継承するかで悩んでいる方は、お客様に評価されている部分を探して欲しい。僕もそうでしたが、会社の状況が悪いときって、悪いところばかりが目についてしまうんですよね。だけど、それまで続いてきたということは、絶対にいいところがあるんです。それを見つけ出せるか出せないかに、今後の逆転はかかっているのではないでしょうか。

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