マーケットを牽引する
柔軟な「姿勢と視点」

株式会社シュゼット・ホールディングス
代表取締役社長 蟻田 剛毅 氏

デパ地下でおなじみの人気の洋菓子ブランド「アンリ・シャルパンティエ」、「シーキューブ」を展開するシュゼット。創業者である父、2人の先代の後を受け代表取締役に就任された蟻田氏。経営の危機、原点回帰、海外展開などその道のりで得た経営感とは?JAC Recruitment代表取締役社長の松園健がお聞きしました。

はじめは社長を辞退

株式会社シュゼット・ホールディングス
代表取締役社長 蟻田 剛毅 氏

松 園

まずは蟻田社長が社長になられた経緯を、教えていただけますでしょうか。始めは、辞退されたとか?

蟻田氏

私の父が創業者で、父のあとに2人の方が社長に就任されました。私が入社して何年か経ったところで、先代の社長が急に辞意を表明されまして、多分、創業者の息子である私が入社するということは…、と考慮してくださったのだと思います。創業者はこの複雑な問題を相当シンプルに受けて「ありがたい!じゃあ次の社長はお前だ」と決めたんです(笑)。でも私は嫌で、辞退したんですよ。
もともと前職の広告代理店での経験を生かして、販促課長というポジションを与えられていましたし、そこで一年間覚悟を決める引継期間を設けたのです。ところがその間、会社の成績がすごく悪化してしまったんですね。会社も初めて赤字になりました。会社の経営が危機的状況になった時は、やはり創業者の一家が責任をとるべきだ、と思い改めて私が社長に就任することにしました。

強い決断。創業者の力を改めて感じる

松 園

赤字になったタイミング、ということで、当時の業界の状況やそれを取り巻く環境をお教えください。

蟻田氏

リーマンショックの直後だったのですが、洋菓子業界的にはそこまで影響は受けなかったんですよ。しかし当時の私どもは関東への本格進出を会社の大きなテーマとして掲げておりまして、そこに丁度“デパ地下ブーム”が重なってデパ地下の店舗網拡大に歴史的な投資をかけた直後でした。千載一遇のチャンスということで、人も設備も工場も一気に投資したが故に、リーマンショック後の売上減が他社よりもシビアにこたえて、うちだけガタガタになってしまいました。

松 園

逆風が吹く環境の中、色々と試行錯誤されながら今に至るまで、逸話などがあればお教えください。

蟻田氏

これまで新商品の開発を第一に考え、弊社の歴史でも創業者の商品開発によって素晴らしい結果を得てきた背景があるのですが、私が社長に就任する直前の1年の間に創業者のマインドが180度変わったのです。 それまでは新商品、新商品と言っていたけれど、それでダメならば逆に定番商品やコアな事業に特化することに専念してみようということになりました。
創業者から、「我々の事業にはものづくりが基盤にあるので、まずは工場づくりからやり直すプランを立ててくれ」、という指令が私を含む幹部に下されました。自分たちの資産というものを見つめなおす、いわば原点回帰の始まりですよね。私もそれまでたくさんの方からアドバイスを頂き、そういうことができればな…と思っていたのですが、できずにいたこともありました。バシッと決断して指令を出す姿に、さすが創業者はすごいなと、感動しましたね。そんな彼の熱意に、従業員も心を動かされたのだと思います。

松 園

やはり先代の眼力は、目を見張るものがありますね。蟻田社長も社員を外に出し、外から学ぶということを積極的に行っていたとか。

蟻田氏

父とも面識のあった私が大学院時代に師事した教授に、経営戦略を組むために相談してみたんです。話してみると、当時は危機にあったから、私自身が冷静さを失っていたことに気付きました。同業他社の社長さまともお話させていただく機会がありまして、同じ業界でずっと戦ってきた当社への感想を聞かせてもらうと、「もっとフィナンシェ売ったほうがいいよ」など、冷静な意見をいただきました。主観で動くことも大事ですけど、客観的要素を植え付けていくことが本当に大事であると思いました。
そして会社の中に、これまでの固定概念にとらわれない社員がいないといけないのかなと考えていたときに偶然、うちを担当していたコンサルティングファームの若手社員の方が「そちらに行きたい」と申し出てくれたのです。
彼女の入社後の活躍によって中途採用の道が切り拓かれ、現在は通年採用や外国人の採用も視野に入れて採用活動をしています。弊社の特徴として、私も含めて、「直さないといけないところがあるならば、直してみよう」という真面目さがあると思っています。それが、危機を乗り越えられた大きな要因だと思います。

松 園

お話しを伺って、商品・事業に強いこだわりを持つ部分と、外から学んだことを真摯に受け止める柔軟さの、バランスが優れていると感じました。

蟻田氏

父が亡くなり、先代の社長も予定通り退任した際、社長経験者の経営者を一気にふたりも失ったんです。最初は社長に就任することを拒んだ私ですが、リバイバルプランを練ったりするなかで、ものすごく社長をやりたくなりました。その時に、先にもお話した私の出身大学院の教授から、話があると言われ激励を受けるのかと思ったら、「燃え上がりすぎているから、一度冷静になったほうがいいんじゃないか。経営者がふたりもいなくなって、社員はかなり焦っているだろう。君のことを広告代理店からきた営業マンで、最後は名目上の副社長を修行としてやっていたけれど、それまでは課長までしか経験していないことを、みんな知っている。君がはり切って“あれやるぞ!”と言っても、誰もついてきてくれないだろう。1年間は我慢して、経営幹部の言うことを聞き、議事録を作り、その中で議論しなさい。すべてひとりで決断したわけでなく、みなさんから意見を頂いた上で、私は最後にこういう決断を下しました、という態度を見せてやりなさい」と言われたんです。
先生としては形式上の話だったのですが、私は実際に1年間、その教えを守りました。その時に、みんなの判断を「いいな」と思いまして。圧倒的にみんなで議論したほうが提案としても練れるし、自分としても納得がいきました。

松 園

蟻田さん、ニトリの似鳥さん、H.I.S.の澤田さんなど、成功されているオーナーのお話を聞くと、ロマンがあって信念という軸がすごく強いのですが、一方ですごく吸収力があり、だれに対しても目線を合わせて受け入れる柔軟な部分が共通していますね。

蟻田氏

そんなすごい方たちと比較されても…(笑)。

トップを引き継いでからの増収増益へ

JAC Recruitment
代表取締役社長 松園 健

松 園

それは、好調な業績が示してらっしゃるので。ご謙遜もあると思いますが、業績はやっぱり、経営者のひとつの通信簿みたいなものですから。バトンタッチされてからの業績は増収増益で、当然利益も好調にいってらっしゃると思いますけど。秘訣と言いますか、ご自身のこだわりはありますか?

蟻田氏

おっしゃっていただいたように増収増益はなかなか簡単に達成できないので、すごくありがたいことですよね。でも自分は常に、会社や業界を疑ってみています。父がすごく楽しんで、最終的に選んだお菓子という業界を私としても、やっぱりいい業界だなと思っています。それを考えますと、我々の成長の度合いだったり、やっていることが、本当にこの程度のものなのか?と。我々は5億円増収したけれど、もし創業者が生きていたら、10億円は増収できたんじゃないか。去年1年頑張ったけど、まだまだできたかもしれない、と。
そうやって「そのギャップは新しい年度に埋めよう」と常に思い続けていることが、もしかすると、結果につながっているのかもしれませんね。それから、従業員に“蟻田家”の存在は、常に考えてもらうようにしています。蟻田尚邦のお菓子業界への愛情によって、この会社は続いていると思っていますから。流行っているからといって、他の業界に手を出すことはしたくない。やはりギリギリまで、ロングセラーのお菓子で世の中を喜ばせる、驚かすことに徹していくことが、会社を正しい進路に導き、社員を路頭に迷わせないための基本だと思いますので。

松 園

拡大したいという欲求がすごく高まる時期って、どのオーナーにもありますよね。いろんな商品を作ったり、他の商売に手を出したり。そこを原点回帰でしっかり見ていかないと、脱線してしまうということですよね。シンガポールで海外市場にもチャレンジしていらっしゃると思うのですが、どのような戦略をお持ちですか?

蟻田氏

シンガポールでも、日本と同じ戦略で勝負するのがすごく大事だと思うんですよ。他の国に行くと、新しい土地で商売、事業を始めるわけですから、“1番になってやる”という気持ちはもちろんありますよ。だけど、そういう志だと長く続かないと思います。お客様に“1番にしてもらう”っていう考え方も、すごく必要なのです。商品開発をし、プロモーションをかけて、初年度よく売りました!っていうのも、楽しいとは思うんですけど。最初はお菓子だけかもしれないけれど、工場も作って、喫茶店も作って、物販もやって……と順序をつけながら、会社としての誠意を示す。「なかなか面白いじゃないか、だったらあいつら1番にしてやるぞ」と思ってもらいたいですよね。だから日本のフィナンシェについてどうこう語るよりも、ただ“美味しい”と感じてもらうことがベストと考えるのです。味から、日本の技術を認めていただくことが大事だと考えています。
売上って、自分達でコントロールできないじゃないですか。我々はフィナンシェの販売数(2500万個)で、ギネス世界一に認定されているんです。“世界で一番大きいケーキ”なんかは、自分達で望めば叶ってしまう。でも販売数はお客様ありきなので、それをすごく誇りに感じています。

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