肩書きを見ずに人を見て、
本音で語れ

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役専務執行役員
グローバル・ビジネス・サービス事業本部長
山口 明夫 氏

経営、マネジメントで大切な資質とは

松 園

これまで多くの経営者の方にお会いしてきましたが、経歴は実に様々です。ただ共通して言えるのは、絶体絶命の危機を乗り越えた経験をお持ちですね。山口さんも、さまざまな異質な環境でご自身の足腰を鍛えられたと思いますが、スキルや知識、人脈、ダイバーシティなどを身につけられた中で、重要なのは何だと思いますか。

山口氏

鍵となるのは、仕事のあり方でも、知識でもノウハウでもなく、信頼できる人を仲間にできたかどうか。それは相手が外国人でも日本人でも、新人でも先輩でも、OB、役員であっても、お客様でもIBMでも関係ないです。最後は必ず人と人との信頼関係です。それが仕事の楽しさにも繋がるので、人をよく見るようになりました。学生時代には解らなかったことですが、会社で様々な経験をさせてもらったからかもしれません。

松 園

やはり社会人になって大変な環境に置かれた結果、自分一人では出来ないことを痛感して、人との関係性を築くスキルを身に着けられたのでしょうか。

山口氏

実際に、一人で仕事はできない。そもそも一人では社会で生きていくこともできません。私は配下のメンバーには「マスで見ないように」と言います。○○事業部の人たち、女性の人たち、○○プロジェクトの人たち、という括りで見てはいけないと。各人がその時々に置かれている環境や能力に違いもあるので、一人一人を見て、能力やキャリア、悩みなどを見るべきだと言っています。お客様、そして会社の中でもそうです。企業の肩書きで人としての価値は測れません。その人自身のことを理解しようとすることが重要だと思います。

松 園

肩書きで判断せず、その人自身を見るということは、社会に出て揉まれていくほど難しい。他に軸としている信念はありますか。

山口氏

“何が正しいか”だけは、きちんと判断しようと肝に命じています。その判断についてお客様や、上司、部下にそれぞれの立場から見られるわけですが、どの観点からでも公平だと胸を張って言える判断をしたいと考えています。100パーセント正しいことはないから、間違えたら「ごめんなさい、間違いでした」と認めて修正するしかない。そういう素直さも必要だと思います。

松 園

公平性と正しさ、そして素直さ。これも大きな組織を預かると保つのが大変です。数々の企業がそこでつまずいていますよね。私も当社JAC Recruitmentの代表取締役社長になって約7年、そうありたいと思っていますが、山口さんがそれをできるバックボーンは何でしょう。

山口氏

私も十分にはできていません。失敗の連続です。しいて言うなら、変なこだわりがないからかもしれません。「自分はこういう人間だ」と肩肘張らず、「いいじゃん、そんなの」と(笑)。私は、たまたま今の役割を演じさせてもらっているだけですから。もちろん真面目に取り組んでいますが、それが人生の全てではありません。

松 園

自分の社会的なポジションに関わらず、ニュートラルな意識を持ち続けているということですね。日本IBMのメインのビジネスとも言える事業部で、プロの経営者として責任ある立場になって変わったことはありますか。

山口氏

責任があるので、数字は気になり、経営判断を間違えてはいけないと思う。正しいと思って判断してもリスクは責任範囲に応じて大きくなるので、やはりストレスは、ありますね。

松 園

重責を負うほど日々プレッシャーやストレスはあると思いますが、どう解消していますか。

山口氏

仕事量や重責にかかわらず、仕事を楽しむ感覚を忘れないことですね。例えば矛盾した不合理な体制の中で我慢して働いていたら、絶対にもたないと思う。幸いIBMは、違うと思えば「それって違うよね」と言える文化がある。これはIBMで働いていてよかったと思うことの一つです。

好きな仕事を極めるプロたちが協力しあうIBMの強さ

松 園

IBMならではのカルチャーとは、どのようなものですか。

山口氏

IBMはいい人が多いと感じます。問題が出ても、足を引っ張るとか揚げ足を取るのではなく、事業部が違っても皆で一緒に解決しようとする。そういうカルチャーがあるから楽しい。しかも、ただのチームワークではなく、それぞれがプロフェッショナルで、意識の高い者同士で集まると、仕事がしやすくなる。前向きに本気で仕事をする人のところには、そういう人たちが集まってくるので、仕事がさらに面白くなるという好循環があります。
また縦割りの組織を超えてお客様に提案することも、他社ではあまりできないと思う。お客様を第一に考え、上長を都度通さずに、現場で話を進めてから上司に相談するようなこともありました。これも醍醐味です。主体性とコミュニケーション力があれば、楽しく仕事ができます。

また、ものづくりの会社として自社製品とソリューションが大好きな人がいるのも良いです。コグニティブ・コンピューティングのIBM Watsonや、医療コンピュータなど開発を進めていますが、子どものように目を輝かせたエンジニアが「これで世の中を変えられる」 「ガンの患者を治せる」と話すのを見ると、こちらもやる気になる。あとはお客様が大好きで、30年同じお客様を担当している営業もいる。自分が好きな仕事を語り合って、それを認め合うカルチャーがある。そういう人に会うと、営業も感動して「そんな人が作っているから、ちゃんと売ろう。勉強しよう」となります。マーケティング、人事、マネジメント、それぞれの分野で、みんながそれぞれのプロ。極みを目指し続けることが大事。そういう人の集まりがIBMだと思う。

松 園

IBM創業時から、ものづくりがベースにあり、ソリューションやソフトが展開されている。その先にいるお客様に対しても指向性が高いということですね。

これから目指す組織運営のあり方

松 園

これからのご自身のキャリアパスや、将来についての考えをお聞かせください。

山口氏

お客様のために頑張る、また一緒に働く人たちが楽しいと思える職場にしていきたいと思っています。世の中には難しいことがたくさんあり、ビジネスも複雑化してITも発展し、一方少子高齢化問題など課題もあるので、一つひとつ、一緒に考えていくしかない。議論して結論を出して前に進んでいける、そういう組織でありたいです。働き方改革で「水曜17時以降は残業してはいけない」とトップダウンで指示を出すのではなく、皆にとって今まで以上に働きがいを感じる組織をつくること、それが重要だと思います。

経営者を目指す若手へのメッセージ

松 園

今はご自身でも部下をたくさん抱えていらっしゃいますが、先々経営者を目指す若い人に伝えるとするなら、どんなことがありますか。

山口氏

本音で人とコミュニケーションをとった方がいいと思う。そこから学ぶべきことはとても多い。また、地に足がつかずに、あれやりたい、これやりたいと隣の芝生ばかり見て、「自分の能力が活きるのはここじゃない」と言わずに、今与えられた仕事を一生懸命やるべきです。頭で考えすぎるよりも、やるべきことをやった方がいいし、やり方次第で楽しいことがたくさんあると思う。上司や、サポートしてくれる人を増やすためにも、やはり人との信頼関係をしっかり築けるかどうかも、経営者を目指す人にとっては大事なことです。

松 園

まずは足下を見ようということですね。山口さんは若い頃から経営者を目指していたというより、目の前のことをしっかりやってきた結果、自然とその仕事が好きになって、今のキャリアにつながった。また尊敬できる上司や、支えてくれる部下、分かり合えるお客様の協力を得られたのは、どんな人とも本音でコミュニケーションをとってきたからこそ。その両輪が大切だということですね。今日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

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