アルバイトから執行役員への軌跡

BIPROGY株式会社(旧日本ユニシス株式会社)
取締役専務執行役員 CSO 葛谷 幸司氏

転機には、人との縁と強みを生かす。

早 川

葛谷さんの転機には、信頼できる人との出会いや言葉がありますね。

葛谷氏

本当にそうだと思います。次の転機は、また社長との縁なのですが、前社長は、私が若い頃最初に行った地方銀行のプロジェクトの課長で、私の結婚式で乾杯の発声をお願いした縁。
その前社長から、ある時「嫁さんや子供たちの様子はどうだい?」と聞かれました。営業時代の5年間は忙しさのあまり家庭や子供を顧みない生活になっていたので、「忙しくて家庭崩壊寸前です」と答えたら、「環境を変えよう、3銀行受注したからそろそろ経営企画はどうだ」と。自分としては、経営企画に興味はあったものの、当時は営業として、“飛ぶトリを落とす勢い”というのは言い過ぎかもしれないけれど、もっと行けるという自負があった。でも現実としては、子供たちのことや今後の自分のことを考えるタイミングなのかな、と。後陣に道を譲ることで、若い世代を成長させる機会にもなりますしね。

早 川

ご自身で振り返って、職種が変わっても功績を残せる要因はどこだと思いますか。

葛谷氏

1つ言えるのは、基礎技術なり何らかの「軸」があることが大事。営業から入ってエンジニアになるのは難しいけれど、ものづくりという強みがあると、セールスをしても良さと悪さがよく分かる。私はエンジニアから営業そして経営企画へと異動。
また、エンジニアから営業と携わった業種は同じ金融業界でしたが、職種としてはオールラウンドで知見が溜まっていた。また、知らない部署や知らない会社に行くとアウェー感を感じると思います。私もシステムの本部長から営業の事業部長になったとき、現場にはお手並み拝見といったムードがあった。こう見えて私は人見知りなのですが、逆に打ち解ければ本音でしゃべるタイプ。仲良くなれば強い信頼関係ができる。もう1つ自分で言うのも照れ臭いですが人を巻き込む力が強い。なぜかというと問題点をシンプルにしようとするから。社内でよくある議論なんですが、難しいことをやりたい時、「あなたには解らないでしょう」と上から目線で難しく説明するAパターンと、平易な言葉で説明するBパターンのどちらが人を巻き込む力が強いかというと圧倒的にB。物事を極力シンプルに、あるいは抽象化するのが、早く浸透させるテクニック。話を聞いた側も行く方向が見えてきます。
また、人をマネジメントするには自分にできないところをどうアサイメントするかも大事。私は好き嫌いではなく、一番パフォーマンスを出す人に仕事を任せたいタイプ。だから社内で事業の判断や決済をするとき、極力シンプルに説明することを要求します。
それができない人もいるし、あえて難しい言葉で自慢げに言いたくなっちゃう人も多い。でも難しいことほど解りやすい言葉で伝えると、当然相手も理解が深まり、パフォーマンスを発揮できたり、スピードが上がったりするんです。

50歳を迎え、ボードメンバーとしての取り組み

早 川

2014年、執行役員になり経営企画部長に。経営を意識したのはいつですか?

葛谷氏

当時は執行役員になると、社員を退職して、改めて執行役員として契約しました。そこで私も会社を動かす側に来たと自覚しましたね。ちょうど業績が非常に悪い冬の時代。経営企画部がうまく機能していないと考え、色々な施策を打ちました。
その1つが社内キャラバンです。いくら上層部が従来のSIビジネスから高付加価値なサービスビジネスにシフトすると言っても、会社には数千人の社員がいてなかなか地方の事業拠点までメッセージが届かない。私が若いときも中期経営計画なんてしっかり読まなかったし、社長を見るのも入社式か年頭の挨拶ぐらい。帰属意識がどうしても現場寄りになる。しかし会社を変えるなら、社員全員に意識を浸透させなければいけない。そこで社長と共に全国の支社支店を回りました。会社の状況、IT業界でのポジショニングや「3年後こうしていこう、そのためにこうして欲しい」と社長自ら語ってもらい、私が中長期の経営計画を噛み砕いて説明する。
これを2年やって、会社の業績も上がっていったので、当時やってきたことが形になってきたなと思います。

めまぐるしく変わるIT業界で、今後の展望

早 川

現在の課題はありますか。

葛谷氏

会社の業績はおかげさまで上がりましたが、BIPROGY本体だけでも2800人もいるエンジニアの仕事は、まだSI中心。革新的なサービスを生み出す会社にしっかりシフトするためには、社内の最大の集団がその気にならないと変わらない、と、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)としてまたエンジニアを見ることになりました。
時代はまた変わりました。エンジニアの働き方改革として、会議や資料作成などの業務を効率化することにより週3時間以上の時間を実業以外の勉強に充てるなど、新たな取り組みを進めています。
また、私のように色々な職種を経験するなどのオールラウンドな人間を増やすのは経営課題です。現実としては、入社以来ずっとSEとか、営業とか。業界も公共だけ、流通だけとか。オールラウンドなキャリアパスはあまりありません。私が経営に参画してからは職種や担当業種を跨ぐローテーションを増やしています。昨今は流通業が金融業に参入するなど、業種・業態の垣根を越えてさまざまな企業が連携するビジネスエコシステムの時代。新しい経営層を育てる為にも自分の担当する業界しかわからないと困るので、常務執行役員としてシステムを担当したとき、最初はシステム部門の部長約100人全てと面談したんです。でも時間がかかるし周りには伝わらない。ビジネスエコシステムへの対応も急務だったので色々相談もしたいと思い、部長を集めてチーム割りして討議する場を作った。これは、異業種や違うキャリアを知る機会になっており、次の経営層を育てるためにもとても重要です。

早 川

次世代の育成にも注力されていますね。今後チャレンジしたいことは何ですか。

葛谷氏

当社は従来、お客さまのニーズに沿ったものを作って納めるというビジネスでしたが、今後は人のネットワーク効果を狙ったプラットフォームビジネスを作りたい。これはどこでも言っていることですが、何を作るかは会社によって違う。当社ではAIやIoTなどの新しい技術を活用して、お客さまやパートナー企業と共に社会を豊かにする価値を提供し、社会課題の解決に向けた取り組みを進めています。例えばAIや画像技術を使って老朽化した橋や道路のメンテナンスを効率化する。またインバウンドサービスでは、スマホを活用した多言語の観光案内や観光地での「デジタル周遊パス」、食事などもできる「電子バウチャー」といった仕組みづくりなど。一つ一つはまだ小さいけれど繋がっていくと大きなプラットフォームになり、多くの人々が使ってくれるようなものを作っていきたい。
自らプラットフォームを作る、またはプラットフォームがすでにあれば当社のサービスをのせるという2方向で進めています。我々の会社のコンペティターはもうIT業界ではない。アマゾンしかりですよね。アマゾンはECをやりながらさらに事業分野を広げている。ということからすると、IT企業も、例えば流通業や金融業にシステムを納めているノウハウがあるなら、それらを生かした新たなビジネスを自ら行うことができるんじゃないかと。当社グループのキャナルペイメントサービスは、当社の中国系決済サービスおよびプリペイドカードなどへのチャージを行うチャージポイント事業を分社化して2017年に設立した会社ですが、デジタルマネーでコンシューマに近い分野を扱っています。
もちろん従来のSIでもお客さまの声に応えながら自ら新たなビジネスも広げる。我々には自らやるノウハウもあるし、色々なスキームを作ることもできる。様々な企業や多くの人々と繋がり合うビジネスエコシステムの中核となって、ビジネスを繋いでいくことが、会社をさらに伸ばす事に繋がるのではと期待しています。

経営のプロが身につけておくべきこと

早 川

今後経営を目指す人に。ボードメンバーとなり、もっと早く勉強すべきだったと思うことは?

葛谷氏

昨今はコーポレートガバナンスやコンプライアンス、労働基準法など労働者を保護することに非常にセンシティブで、法令遵守の意識も高まっています。
ネット時代なので風評被害もあり、企業にとってもセキュリティ事故や情報漏洩など様々なリスクがあります。経営に関わる人もそうでない人も皆、今一度、意識を改めなければいけない時代です。これは経営側になってからではなく、若いうちからあたりまえになるよう意識を高めておくべき。社員教育も必要で、その上で経営の判断が重要。会社の内規など内部の仕組みも変えていく必要がある。
CSRやCSV、株主に対する責任、SDGs(エスディージーズ)など、今後ますます必要なことは増えていくでしょう。経営に携わるなら早いうちからキャッチアップすべき。これからの経営には必要不可欠なことですね。

Topページへ